2020/09/13

With Corona Project ⑦ 〜理学療法士としての能力向上に欠かせない「症例検討」

今回ホストを務めてくださった、角谷整形外科病院 中根康博先生

KKCM Web症例検討会に参加した
京都下鴨病院・下鴨リハビリテーションクリニックのスタッフ

KKCMの理念

今回のプログラム



OH!NO!DX BLOG では、コロナ禍にあって学会や研修会、セミナーなどが相次いで中止される中、少しでも臨床の理学療法士の医学的思考形成や臨床力向上に繋がる一助として何か出来ないかと考え、With Corona Projectと題して、2020年8月2日日曜日から毎週日曜日に更新しています。第1回 問診、第2回 触診、第3回 画像の診方、第4回 凍結肩について、第5回 膝OAについて、第6回 股OAについて連載してきました。今回は「症例検討の大切さ」について記載したいと思います。

去る2020年9月11日に関西肩コラボレーションミーティング(KKCM)主催オンライン症例検討会が開催されました。角谷整形外科 整形外科医 中根康博先生がホストとしてコーディネートしてくださいました。医師・理学療法士合わせて120名近くの参加者があったそうです。

当院からは理学療法士 堀内奈緒美先生が検討演題の提示を行いました。京都下鴨病院と下鴨リハビリテーションクリニックの理学療法士15名が参加しました。

今回の症例検討会では、5症例について医師と理学療法士がそれぞれの立場から意見交換する貴重な経験となりました。

皆さんの職場では症例検討や症例カンファレンスをされておられますでしょうか?もし、されておられないのであれば、少しの時間でもいいので、症例検討をされることをお勧めします。

「症例検討の大切さ」については今年の8月1日掲載の本BLOG「臨床の理学療法士が行うべき本質的な学習のあり方(私見)」にも一部記載しましたが、「病態を解釈するための医学的思考」を養うためには「症例検討」が最も手軽で、最も有用だと考えています。もちろん学会や研修会・セミナーへの参加でも一定程度養うことは可能だと思いますが、実際に担当している症例や自施設にお見えの症例について、理学療法士同士や医師も交えてディスカッションすることで、セミナー等では学び得ない多くのことを学ぶことが出来ます。最初は提示された症例について考えるだけでも、先輩理学療法士の考え方やアプローチ方法を聞いているだけでも構いません。でも出来れば次のステップとして、①質問してみる、②自ら意見を述べる、③症例を提示する、というふうにOutputなさってみてください。Inputだけでは得られない多くの学びがあります。

症例検討に提示するためには、①症例の病態を整理する必要が出てきます。そのためには、②自分が何を、どう、評価し、どの様に解釈していったのか、その過程を整理します。まずこの2点だけでも相当勉強になる作業です。その上で、③短時間で病態を伝え、検討する内容を提起するという「Output(発表)」するための準備をしなければなりません。この過程が本当に勉強になります。ただ問題点を羅列するだけでは時間がかかり過ぎてしまいますし、論点がぼやけてしまいますから、論点を整理するという作業が必要になります。

この一連の振り返り作業(疑問点の定式化)を円滑に進めるためには、PECOという概念が有用です。PECO(もしくは PICO)とは、「Patient(症例)」「Exposure(要因)もしくはIntervention(介入)」「Comparison(比較)」「Outcome(効果)」という手順で整理していくという考え方です。この手順で整理を進めると病態や自身の疑問を明確にしていくことが可能となります。加えてなるべくバイアスを明確にしておくことも忘れてはいけません。Outcomeに影響する要因が理学療法だけだったのか、内服薬や安静状況、病識などはどうかなども、ここで詳細に整理しておきます。

これらの作業を行なった上で、④先輩理学療法士の意見や考え方、⑤医師の意見や考え方、⑥論文などに記載されている治療方法や治療成績など、総合的にその症例について考えるという一連の過程が「症例検討」を通した学びとなり、「病態を解釈するための医学的思考」を養うことに繋がります。それだけではなく、その症例に最適と考えられる理学療法(治療)を構築する能力を養い、知識と技術の向上、果ては臨床研究の種を見出すことができる場合もあります。

このように「症例検討」は多くの学びをもたらす効果があるからこそ、医師は「症例検討」を行うのだと考えていますし、同じく医療従事者である理学療法士も行うべきなのです。

「症例検討」が大切だということは分かったけど、「自分の職場はそういう雰囲気ではないから」という方もいらっしゃるかもしれません。確かに「症例検討」には一定程度知識や経験がある方(先輩理学療法士や医師など)が参加している必要があり、そのような環境がない方にとっては難しい側面があります。まずは同期同士で始めてみて、そこへ先輩理学療法士や医師に参加してもらうというところから、環境や職場風土を構築するということをしてみてもいいと思います。それは大変過ぎると考えられる方は、前述した症例検討に提示するための①〜③の作業を行なった上で、先輩理学療法士や主治医に相談するだけでも「ミニ症例検討会」を開催することは可能です。

症例について整理し、ディスカッションを繰り返す過程が重要なのです。

私が勤める京都下鴨病院の理学療法部では部内カンファレンスを週4回、院内カンファレンスを週1回、医師の術前カンファレンスへのPT参加を週1回行なっています。その他に文献抄読会を週1回、リサーチミーティングを週1回開催して、日々の積み重ねの中で「病態を解釈するための医学的思考」を培う努力を行なっています。このような環境に辿り着くまでには、それ相応の紆余曲折がありました。振り返ると10年前に私が勤務しだした当初は、同僚の賛同が得られず、後輩の理学療法士と2人でこっそりとレントゲンカンファレンスを毎日30分程度行っていました。

皆さんも是非「症例検討」を行ってください。

このBLOGが皆さんの臨床に少しでもお役に立てればと思います。

All for a smile of patient... by OH!NO!DX

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