7月5日と7月12日の日曜日に「運動と医学の出版社」主催の「動きと痛みLab」のzoomセミナーでお話をさせて頂く機会をいただきました。
7月5日は「エビデンスに基づく腰痛の評価と治療〜どのように評価して、どのように治すべきか」(180名参加)
7月12日は「エビデンスに基づくTHA・TKA術後リハビリテーションの実際」(150名参加)
多くの方々がご参加くださったことに驚きました。お話をさせていただいた身としてはありがたい限りです。
オンラインでのセミナーでは私自身がどのように病態を解釈し、どのように理学療法を行っているかについてお伝えすることは一定程度可能だということが分かりました。でも対面でのハンズオンセミナーのように技術をお伝えすることはやはり難しい部分があるというのが率直な感想です。
臨床の理学療法士が「どのように学習するべきか」については、様々なご意見があると思います。
生意気かもしれませんが、セミナーで受講者の興味を引く方法は理解しているつもりです。
①メインテーマに関する歴史的背景を導入として、これまでの解釈のしかた、新たな知見について解説すること。
②それらに関するエビデンスの提示、自験例の提示により根拠を示す。
③それらに基づいてどのように理学療法を構築するべきか私自身の解釈を丁寧に説明する。
④治療に必要な知識の整理(私の場合は詳細な解剖学について解説)。
⑤評価技術や治療技術の提示
⑥技術指導
と、どのようなセミナーでも①から⑥の流れで行うことで、概ね満足度の高いセミナーを提供できると感じています。もちろんこの流れ以外にも満足度を上げるテクニックがあると思いますし、実際に満足度を上げるためだけであれば、いくつかのテクニックを多用することで思ったような結果となります。
ただ、満足度が高いセミナーを行うことと、実際の臨床で大切なこととが全て一致しているとは考えていません。セミナー受講時は「なるほど」「ふむふむ」と思えたことが実際の臨床で全て役立っているでしょうか。セミナーを受講して一定程度の効果がある理学療法が実施できるようにはなったけれど、新たな問題に直面したり、症状が改善はするもののあと一歩よく仕切れないということがあるのではないでしょうか。
そこで、その問題点をさらに解決すべく、またセミナーを受講する、もしくは自分が認めている講師のセミナーを盲目的に受講するという自動行動をとっている方が多いように感じています。
セミナーを受講するという行動の起点は、「目の前の患者さんを良くしたい」が、「どう行動するべきか解らない」、「何からどう学習したらよいか解らない」、「治療効果が高い方法を知っている人に教わればいいのではないか」だと思います。そしてこのいずれか、もしくは全ての思考がセミナーを受講するという動機になっていると考えています。
図1:セミナー受講の動機と受講後の到達地点
ここで本質的なことは「目の前の患者さんを良くしたい」ということが起点になっているにもかかわらず、「知識もしくは技術を得たこと」がゴールとなっていることです。もちろん受講されている方のすべてがこのような思考ではないと思います。しかし、結果としてこのような思考に陥ってしまっている方々も少なくないと思っています。
図2:本来あるべきプロセスと臨床の到達地点
当院にも私のセミナーや私の同期・先輩のセミナーを受講したことをきっかけに転職してきたスタッフがいます。彼らの多くが図1に示したような思考を持っていることに気づきました。でも本質は図2に示すような流れでなければならないと考えています。そうです、学習の結果として「患者さんがよくならなければならない」のです。
このことにはセミナーの講師にも問題があると考えています。講師を引き受けた以上、無意識のうちに「満足度が高い講義」が提供したくなります。私の場合であれば、「より詳細な解剖」、「エコー画像」、「画像読影」、「触診技術」、「評価・治療技術」ということになるわけですが、実はこれだけでは患者さんはよくなりません。
もちろん講義でお話ししていることに「根拠がない」とか「嘘を言っている」とかそういう類のことではありません。図2に示したように「病態を解釈できる思考」を身につけるためにはセミナーだけでは不十分ということです。図2で示す「?」の中に何があるかということになるわけです。私はここに「病態を解釈するための医学的思考」ということが必要になってくると考えています。
前述した当院のスタッフは本当によく勉強していますし、知識も豊富です。治療技術が低いわけでは決してありません。ただ、持てる知識を上手く活用できず、悩んでいるという印象を持ちます。
ではどのように解決するのか。
明確な答えは持ち合わせていませんが、私たちはカンファレンスを通して、トライアンドエラーを繰り返すことで「病態を解釈できる思考」を養い、少しづつ時間をかけて解決していっています。ここには一定程度の病態解釈ができる先輩という存在が必要ですし、臨床的ベクトルが同じ方向を向いているという環境も必要になってくるかもしれません。
もしそのような環境がなければ、学会やセミナーなど一定以上の水準に到達している医師や理学療法士に、具体的に「どう考え」、「どう解釈し」、「どう治療している」のか、ということに着目して受講したり、質問したりすることが大切になってくると思います。また勇気を振り絞って臨床見学に行くということも有効です。
「先生の臨床が見たいです」と言われて嫌な気持ちになるセミナー講師はいません。少なからず、私と私の周囲にいる理学療法士や医師は歓迎してくれると思います。ただ、今はコロナという厄介な問題がありますが。
コロナ禍の中、対面での学会やセミナーが軒並み中止されているのに、何を言っているんだという声が聞こえてきそうですが、「病態を解釈できる思考」を身につけるためには「王道はない」と考えています。まずは日々論文を読んで知識を増やすこと、日々触診技術を磨くこと、日々患者さんの訴えに耳を傾けること、日々画像と睨めっこすること、日々病態について考えること、日々ディスカッションをすること、日々真剣に患者さんと向き合うこと、日々疑問を持ち解決する方策を考えること、この繰り返しが本質的に大切なことです。
オンラインのセミナーを利用することは決して悪くありません。でもどう活用するか、何を目指すのかが大切だと考えています。
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