2020/08/30

With Corona Project ⑤ 〜理学療法のコツ⑵〜 「変形性膝関節症に対する理学療法の考え方」

FAVPGN(フリー素材)より引用
 



今回は「変形性膝関節症( 膝OA)」について記載したいと思います。前回記載した「凍結肩」とならんで、我々理学療法士が臨床でよく遭遇する疾患の一つであることはいうまでもありません。しかしながら、ひとくちに「膝OA」と言ってもその病態や症状は様々です。発生機序についても不明な点が多く、勉強すればするほどラビリンスへと誘われてしまいます。

膝OAは加齢、肥満、遺伝的因子、力学的負荷など多くの原因が関与して発症する多因子疾患です。なかでも力学的負荷とその蓄積が、関節軟骨の初期変性と破壊や軟骨下骨で起こる骨吸収と形成(いわゆるターンオーバー)の異常に関与するとされています。膝OA 進行の過程では、軟骨細胞外基質(マトリックス)を分解する酵素が産出されます。この酵素がマトリックスを破壊することで、軟骨下骨で行われている骨のターンオーバーのバランスが崩れ、軟骨下骨のミネラル化の減少によりマトリックスの破壊をさらに助長するという悪循環に陥ります。

病理学的には、膝関節軟骨の表層に近い部位からマトリックスの消失が進行していき、軟骨表層の fibrilation、軟骨の菲薄化、亀裂の形成、軟骨細胞のクラスター形成や細胞死、関節周縁部の骨棘形成の変化を惹起します。それゆえ、勉強を進めていくと関節軟骨破壊や関節周辺の骨変化が膝OAの主な病態であるというふうに考えるようになるわけです。このことが私たちを前述した「膝OAラビリンス」へ誘うと考えています。

このような病理学的研究を背景とした知識は必要ですが、臨床の理学療法士が病理学的変化を追求して治療(理学療法)を行うことは困難です。それは臨床の理学療法士が病理学的評価を行える環境にないことを考えれば至極当然なことです。

臨床では、半月板や関節包、靭帯、筋を含む関節構成体すべての軟部組織の退行変化(もしくは外傷)として捉えられて病態を考察していくことの方が有用であると考えています。前述したような病理学的変化を基盤として、解剖学的構造破綻が惹起されることで膝関節痛、関節運動時轢音、膝関節可動域制限、局所的な炎症(含む関節水腫)を呈する疾患として捉えて患者さんそれぞれの病態を考察し、理学療法を行っていく必要があります。

NEJM(フリー)より引用

今年発表された Gail DD et al. N Engl J Med 2020; 382:1420-1429 の報告では、関節内ステロイド注射よりも理学療法の方が1年後の疼痛と機能障害に有益であったと結論付けています。この報告では、平均年齢56歳の156人の患者をグルココルチコイド(ステロイド)投与群78人と理学療法群78人の2群に割り付けています。疼痛の重症度や障害の程度などのベースラインの特徴は両群で同様で、ベースラインのWOMACスコアの平均(±SD)は、グルココルチコイド注射群で108.8±47.1、理学療法群で107.1±42.4。1年後の平均スコアはそれぞれ55.8±53.8および37.0±30.7であり(グループ間の平均差は18.8ポイント、95%信頼区間は5.0~32.6)、理学療法に有利な結果となっています。

このことからも臨床の理学療法士は、軟部組織に加わる機械的刺激をいかに軽減するかを重視した理学療法の構築を考えるべきというふうに考えています。(もちろん病理学を知ることも大切です。)因みに、システマティックレビュー Xia W et al. Arthritis Care and Research 2020  ではデスクワーク中心の職業に比べ身体的負荷の高い職業では、膝OA発症のオッズ比が1.52(95%信頼区間1.37~1.69)と有意なリスク上昇が認められたと報告されています。また、膝立ち、しゃがむ、立つ、物を持ち上げる、階段を上るなどの姿勢や動作を頻繁に求められる職業は、いずれもリスクを増大させ、家事動作では最大93%リスクが上昇するとされています。

さて、話を元に戻しますが、私の見解として「膝OA」とは「単純X線画像上、膝関節アライメント変化が確認できる(特異的所見がある)膝関節周囲炎であり、患者さんは膝関節周囲の疼痛や可動域制限、動作困難などを主訴とするもの」と定義しています。一般的には明かな原因がなく加齢による慢性的な機械的刺激が加わることで発症する一次性(原発性)と、外傷や半月板切除後、炎症や代謝異常疾患に伴って発症する二次性(続発性)に分けられます。症例数としては一次性による場合が多いとされています。

個人的には、Kallegren-Lawrence分類や腰野分類などはあくまでも膝関節のアライメントを示しているもので、そこから解剖学的構造破綻を推察するものとして捉えています。もちろんそれらの進行に合わせて、症状が深刻化していきますから、病態を反映している重要な所見であることを否定しているわけではありません。ただし、K-L分類が3や4であったとしても患者さんが訴える症状は様々で「痛くてたまらない」方から「特定の動作さえしなければ痛くない」方もいらっしゃいます。つまり、単純X線画像上の変形がK-L分類で同じ程度に分類される状態であったとしても、解剖学的構造破綻による機能変化(症状)は患者さんによって様々であるという当たり前のことを忘れてはならないということです。

「膝OA」の症状として想起される代表的なものといえば、膝内側部痛ではないでしょうか。その要因も様々です。この膝内側部痛には鵞足炎(PAB:Pes Anserine Bursitis)もありますし、内側半月板後角損傷(MMPRT:Medial Meniscus Posterior Root Tear)などもあります。PABはその名の通り滑液包炎による鵞足構成筋の滑走不全がその病態です。一方、MMPRTは非外傷性(約70%)に特発する膝後内側部痛です。半月板後角の機能破綻に伴い、内側半月板が逸脱し、半月板衝撃吸収能の低下に伴い大腿骨内側コンパートメントへ加わる負荷が増大することは既知の事実です。またMMPRTは特発性膝骨壊死(SONK:Spontaneous Osteonecrosis of the Knee)の原因の80%を占めるとも報告されています。Santiago P et al. Arch Bone Jt Surg. 2018 Jul; 6(4): 250–259. PAB・MMPRTどちらも背景には、いわゆる膝内反変形に伴う外側方動揺性(Lateral thrust)による反復した機械的刺激により惹起されていると考えられます。MMPRTの場合、関節鏡を用いたPullout法による半月板修復術の適応とされる場合が少なくありません。しかし、約80%が保存療法でも良好な治療成績を示すとの報告もあります。梅原ら JOSKAS 2011; 37: 36-37 

同じ膝内側部痛であってもその病態は様々で、ここでも問診・理学所見・触診・画像診断が重要になってきます。

PABに対する理学療法:PABの場合その病態は滑液包炎に起因する鵞足の付着部滑走不全ですから、治療としてはその滑走性を改善させるということになります。炎症性の疼痛を示唆する所見(安静時痛)がある場合は杖などを用いた免荷と安静を2週間程度行います。もちろん医師によるNSAIDsなどの内服も併せて行うことで、早期に炎症を鎮静化させます。その上で徒手的に筋の付着部と滑液包間の滑走を他動的に促します。ここでどの筋がその最大の要因になっているかを鑑別するという技術が必要になります。私の場合はほとんど触診で鑑別できてしまいますが、恩師 林典雄先生や同期の赤羽根良和先生が推奨している鵞足筋ストレステスト(鑑別テスト)も有用です。また盟友八木茂典先生のグループがターゲットとしている半膜様筋がその要因である場合も少なくありません。我々がターゲットとするべき軟部組織についてはLöffler内側解離術で操作する組織を考えると参考になると思います。(日関外誌23(2) 2004 117-123日関外誌23(2) 2004 149-156 、変形性膝関節症の治療における最近の動向, とくに広範内側離術を加味した高位脛骨骨切り術(extensive high tibial osteotomy) についていずれにせよ、これらの筋の滑走性を改善することで疼痛は大幅に減少します。ここまでで大切なことは①安静もしくは杖による部分免荷を行うこと②その上で筋の滑走性改善を他動的に行うこと、の2点です。この段階で安に筋力強化の様な自動運動を行うと、治療の遷延化を招来します。①と②により疼痛が大幅に減弱してから、自動運動を行うことがポイントとなります。自動運動では膝伸展運動も行いますが、私は背臥位と長坐位の2肢位で股関節内旋運動(1日に各肢位ごとに20回を3セット)を行って頂きます。目的は大腿骨と脛骨の外旋化の是正です。膝OAでは大腿骨と脛骨が外旋していくことは既知の事実です。その原因には加齢に伴う骨盤の後傾化や足部アーチの低下、膝軟骨や半月板の変性に伴う回旋、アライメント変化に伴う適応など様々な要因が考えられますが、今のところ明確なエビデンスはありません。ただ、これら下肢の外旋化を抑制する運動が効果的であることは間違いありません。局所の滑走不全を改善した上で、もしくは状態によって並行してこれらの自動運動を行うことで、K-L分類3程度の患者さんでも症状は改善していくことを多く経験しています。概ね12〜24週程度で症状が消失もしくはNRS 3/10程度に改善すればまずまず良好な治療成績と考えています。

MMPRTもしくは半月板損傷に対する理学療法:半月板損傷に対する治療では前述した通り、関節鏡による修復術もしくは切除術が行われることが少なくありません。半月板部分切除術とSham手術(偽手術)では12ヶ月後のWOMETスコアと除痛に有意差がないとする報告 Raine S et al. N Engl J Med 2013; 369:2515-2524 や半月板手術と理学療法では6ヶ月後・12ヶ月後ともWOMACスコアに有意差がないとする報告 Jeffrey NK et al. N Engl J Med 2013; 368:1675-1684 などのエビデンスが多く報告されています。これらを考えると「適切」な理学療法が実施できるのであれば、半月板損傷であっても理学療法の適応であると考えられます。ここからは私見になります。私が考える「適切」な理学療法はまず半月板損傷が明らかになった時点で①完全免荷を2週間(できれば支柱付き装具固定もしくはシーネ固定付き)、②部分免荷(1/3PWBもしくは1/2PWB)を2週間(できれば支柱付き装具固定付き)を行います。③その後2/3PWBを1週間、④全荷重とします。もちろん①〜④の全期間を通じて愛護的関節可動域練習を実施します。⑤その後12週目までは、歩行程度の運動までとしてしゃがみ込みはしない、階段昇降は健側からの2足1段とします。①〜⑤までの期間でなるべく半月板の修復を促します。(ここでいう半月板の修復とは、半月板の周囲を線維軟骨が覆うことで半月板断裂部の安定化を図るということを指します。一旦壊れた半月板が再生することはまずありません。)⑥軟部組織の滑走不全を改善する様な徒手操作と段階的筋力強化を実施する。筋力強化はOKCから段階的にCKCへと移行していきます。最初の4週間は絶対的にOKCです。次の4週間はCKC(この頃に階段昇降1足1段を許可します)。そして最後の4週間は走行やしゃがみ込み、ジャンプなどを許可して、負荷量が強いCKCトレーニングを実施します。(高齢者や低負荷運動しかしない方であればこのフェイズは不要です。)ここまでで、約6ヶ月間を要します。こうすることで理学療法でほとんど症状が改善すると考えています。

もちろんキャッチングやロッキングがある患者さんでは手術が必要です。前述した Jeffrey NK et al. N Engl J Med 2013; 368:1675-1684 でも術後3ヶ月間は手術群が明らかに治療成績が良好です。私の見解はキャッチングやロッキングがある症例や早期に高負荷の運動を望む症例であれば、半月板切除術や半月板修復術の適応です。ただし半月板切除術ではのちに膝OAが進行しやすくなるというリスクがあります。それでもなお、早く職業復帰やスポーツ復帰を望むという患者さんであれば手術が良いと思います。どの様な治療が適応になるか、その明確な統一された適応基準がありませんし、理学療法についてもどの様に進めるべきかについて統一された見解はありません。そこは患者さんの希望と主治医の判断に委ねられていると思います。理学療法が選択された場合には最善の治療を実践し、それをエビデンスにしていく必要があると考えています。

今回は膝OAについて記載しました。PABもMMPRT(含む半月板損傷全般)も病態としてはほんの一例です。ただ、今回紹介したもの以外でも、病態を一つ一つ明確にした上で、理学療法を展開していくということに変わりはありません。このブログが皆さんの臨床の一助になればと考えています。

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