2020/08/16

Snap PT diagnosis〜理学療法診断を一発で決める③〜「画像を読む」


15年前のノートより「下手な絵で恥ずかしい限りです」
 


Snap PT diagnosisのために必要なスキルとして今回は「画像を読む」力をどう身につけるか、について記述したいと思います。

臨床5年目の整形外科リハビリテーション学会宿泊研修会で、恩師 加藤明先生に「とにかく毎日見なさい」と教えられ、尊敬する松本正知先生に「絵を描きなさい」と教えられました。整形外科リハビリテーション学会に所属する先輩方にも同じことを教わりました。

同じ部位の画像を「100枚見れば違和感を感じることができる」「1,000枚見れば異常に気づく」「10,000枚見れば読影できるようになる」と教わったことをきっかけに、毎日画像を眺める日々が始まりました。そして担当患者さんの画像を絵に描くノートも作りました。

コツコツと努力を続けるうちに「あれっ、なんかおかしいぞ」と感じるようになり、「ここは皮質骨の連続性がたたれているな」とか「健側と患側で骨梁が違うな」とか異常に気付くようになっていきました。

あれから15年経った今ではそれなりに読影できるようになってきました。具体的にいうと整形外科医から「どうして小野くんはPTなのに画像が読めるの?」とか「どこで読影を習ったの?」と聞かれるくらいのところまでは到達しています。

今、後輩に私は同じことを言っています。

「画像を読む」力を養うコツはあります。それは後述しますが、大切なことは「正常な画像も、異常な画像も、含めて毎日、繰り返して」見る、描く、ということです。。

その作業を通して思考が変化し、多くのことを学ぶことが出来る様になっていきます。最近では理学療法士の養成校でも「画像診断」の授業があると聞きます。「画像読影」のコツを教わることは悪くありませんが、コツを教わるだけで「画像読影」が一朝一夕に出来る様になるなら苦労はしません。

本質的には「触診技術」や「治療技術」と同じで、とにかく「反復練習」が必要です。そうです「画像読影」能力を身につけるためには「時間」がかかるのです。

この「時間」を「憂鬱な忍耐の時間」と捉えるか、それとも特殊能力を身につけるための「楽しいときめきの時間」と捉えるか、それはあなた次第です。

私が経験した感覚では、この「画像を読む」ために必要な能力が「ある臨界点」を超えると、「画像が私に語りかけて来る」ような感じになります。「異常所見を探す時間から解放される」という感覚です。それまでの私は「異常所見や病変」を一生懸命探していましたが、そうではなく画像のほうから私の目に飛び込んでくるようになります。

一旦こうなると「画像読影」力は一気に開花していくようになります。これは英語のリスニングの練習と似ている感覚です。あれって、ある日突然聞こえ出しますよね。もちろん知らない単語は聞き取れないんですけどね。ほんとあの感覚と同じです。

前置きが長くなりましたが、「画像読影」のためには大切なことなので、お許しを。

「画像を読む」ためには以下のことが必須になると考えています。(「画像読影」力を手に入れるためのコツ)

①正常解剖を知る。そして正常画像を脳に叩き込むこと。これも「触診技術」と同じです。正常を知らなければ、異常には気づけません。やはり解剖が重要です。そして、解剖の本を片手に画像と見比べることが大切です。その上で、それを絵に描きます。そうすることで、画像から得られた情報と解剖がマッチングするようになり、単純X線画像からだけでも軟部組織の損傷が推察できたり、CT画像やMRI画像、エコー画像の読影にも繋がります。

②必ず単純X線画像から見る。確かに3DCTやMRI、エコーは分かりやすく、それらでしか知り得ない情報があります。私はそれでもなお、単純X線画像から読むようにしています。それはなぜか。⑴全体のアライメントが理解できる、⑵唯一、全体が透過して見ることができる画像、⑶解剖さえ理解していれば多くの情報が推測できる、この3点です。単純X線画像から得られる情報は本当に多いと感じています。そして、この段階であらゆる可能性を念頭において「理学療法診断」の材料としていきます。例えば皮質骨や骨梁の不正像と問診から得られた情報を合わせることで、どの方向から、どのように外力が加わったのかが想像できます。これは「全体」が見える単純X線画像の強みの一つです。単純X線画像を見てから、CT断面像→3DCT像→MRI画像→エコー画像、と読み進めていくことをお勧めします。これを繰り返すことで、MRI画像やエコー画像の読影力が確実に増していきます。

③異常所見を探索する。「あれっ、さっき、画像の方から飛び込んでくるようになるって言ってたじゃん!」という声が聞こえてきそうですが、いきなりそんなことにはなり得ませんから。異常所見の見落としは、「理学療法診断」の過程で致命的です。⑴上から下、⑵左から右、⑶輪郭を見る、⑷骨梁を見る、⑸嚢包や溶骨病変を見る、⑹造骨病変を見る、⑺健患側を比較する、⑻関節の適合性を見る、⑼軟部組織を投影する、など一つ一つ確認していく作業を行います。これらをルーティンにして、システマティックに丁寧に隅から隅まで行います。もちろんこの際に、様々な病態を念頭において確認していくことが重要です。問診から得られた情報から様々な病態を想起しておき、一つ一つ消去法で確認していきます。そうなんです。「画像読影」には「知識」が必要なんです。例えば、肩関節の画像を読むとします。主訴、年齢、職業、スポーツなどの患者背景や理学所見(Painful arc sign、Impingement sign、Apprehension sign、Tenderness sign、etc...)などから拘縮肩、脱臼、腱板断裂、骨折など様々な病態を想起しておき、画像を確認していきます。これらの「知識」を背景として「画像」と向き合うことで、「網にかかった画像所見」を蓄積していきます。いい例えが浮かびませんが、警察24時などでよくある、暴走族を検挙するのに、パトカーが先回りして、幾つかの検問所を設置したり、待ち伏せする作戦と同じような発想です。暴走族の行動パターンや街の地理を熟知しているからこそ、成功する作戦です。闇雲に暴走族を追跡してもなかなか一網打尽にはできません。それと同じで、いくらたくさん画像を見ても、「知識」がなければ話にならないということです。そして、もう一つコツとしては、画像が読める人と一緒に見る時間を設けることです。整形外科医のカンファレンスに参加したりすることが近道だと思います。もちろん先輩PTで読影力がある人がいればそれに越したことはありませんが、PTにはPTの見方、医師には医師の見方があります。その両方を学ぶことが重要です。見方が職種によって違う意味が分からないかもしれませんね。医師はやはり構造を治そうとする視点で画像を見ます。PTは機能にどう影響するかという視点で画像を見ることが必要となります。このどちらもが大切なのです。次に、画像読影した内容をノートやカルテにまとめて記載します。この際、異常所見だけを書くのではなく、正常所見も書くようにすることをお勧めします。例えば、「皮質骨はintact」だが「fat pad signあり」などと記載することで骨膜反応として病態を整理することができ、「理学療法診断」をどのように付けたかという自身の思考をメモすることができます。

④2Dの画像を3Dイメージに投影する。この理解にもやはり「解剖」が必要です。そして単純X線画像がどのように撮影されているかということも知らなければなりません。その上で、単純X線画像に立体的な骨のイメージを投影し、さらにそれらに軟部組織の走行を投影することで、視診や触診で得られた所見とマッチングさせていきます。こうすることで、病態を素早く理解することが可能となります。ここで欠かせないのが、「絵に描く」という作業です。実際に何度も描くことで、2Dが3Dとして理解できるようになってきます。正常解剖図と見比べながら描くことで損傷組織や加わった外力を想像できるようになっていきます。あと可能であれば、人体解剖に参加することです。日本ではコメディカルが解剖することが簡単ではありません。でも解剖できるチャンスを見逃してはいけません。常にアンテナを張って、解剖に参加できる機会を探索してください。解剖実習の参加に関しては、時間とお金を惜しんではいけません。解剖することで3Dでのイメージが構築できるだけでなく、多くの学びがあります。

騙されたと思って、①から④の作業を繰り返してみてください。1日に10人の患者さんを担当していたとしましょう。1ヶ月で20日間勤務したとすると、1ヶ月で少なくとも200枚、1年で2,400枚、5年で12,000枚の画像を見たことになります。この頃には読影ができるようになっているはずです。

浅野昭裕先生著「運動療法に役立つ 単純X線像の読み方」メジカルビュー社 はじめ、様々な出版社から画像読影のための本が出版されていますので、そのような教科書を読むのも悪くありません。ただし、いくら教科書を読んでも「画像読影」ができるようになるわけではありません。考え方や見方のコツやヒントを得ることはできますが、日々の鍛錬以外に「画像読影」力を高める方法はありません。このことは「触診技術」の獲得や「治療技術」の向上と同じです。

Snap PT diagnosisのためには「画像読影」が大きな武器となります。まさに「千里の道も一歩から」です。コツコツと継続した先に皆さんが求めているエキスパートPTとなった姿が待っています。私も日々努力を継続していきます。皆さんも共に歩みを進めていきましょう。

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