2020/08/08

Snap PT diagnosis〜理学療法診断を一発で決める②〜「触診技術」

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前回はSnap PT diagnosisのために必要なスキルとして「問診」を取り上げました。

今回は「触診技術」の大切さについて記述したいと思います。
私の恩師 林典雄先生著の「運動療法のための機能解剖学的触診技術」(メジカルビュー社)はあまりにも有名で今更という感が無きにしも非ずですが、Snap PT diagnosisには欠かせないスキルです。さらに付け加えるならば、単に組織を「触る」ということだけではなく、それが「検査」にもなり「治療」にもなると考えています。

「触診技術」というと「匠の技」的イメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。もちろんそういう側面もあります。「技術」である以上、医師で言うところの「手術」のように経験がものをいうことは否定しません。ただ「技術」は「練習」を重ねることで確実に向上すると考えています。

非特異性腰痛における理学所見の信頼性に関するシステマティックレビューで、「触診」は「信頼性が低い検査」であり、そのことに「中等度のエビデンス」があるとする一方で、「信頼性が高い検査」と質が高い論文で報告されているものもある、と記載されています。特に興味深いのは、「筋緊張」や「スパズム」の評価において「信頼性が低い」と報告されているものもあれば、kappa値が0.85を超えると報告しているものもあるということです。一般にkappa値が0.80を超えると完全に一致していると考えられますから、「信頼性が高い」検査方法ということになります。
May et al: Reliability of physical examination procedures in non-specific low back pain. Australian Journal of Physiotherapy 2006

このことは一体どう解釈すれば良いのでしょうか。

私の解釈は至ってシンプルです。「触診」が「技術」である以上、「技術」レベルが高い人たちであれば、所見は一致し、「技術」レベルが低い人たちでは一致しない、ただそれだけのことと考えています。

Michael Masaracchio(Long Island University 教授、PT)の著書「Clinical Guide to Musculoskeletal Palpation ISBN: 9781450421249 のIntroductionには以下のような記述があります。(括弧内文章はOH!NO!DXによる補足)[以下、OH!NO!DX訳]

触診は繊細な心理的要素を伴う技術であり、検査プロセスの一部と考えるべきである。
通常、検査には、少なくとも病歴、可動域評価、筋力検査、整形外科的検査、関節の可動性評価、神経学的評価、転帰尺度が含まれる。触診で得られた情報は、(これら検査では得られない残りの部分を補完し、)これらと統合する必要がある。このようにして収集されたすべてのデータ(所見)を統合することで、臨床医(理学療法士)は(理学療法)診断を確定し、治療戦略を実行する際の指針となり、また、臨床上の意思決定プロセスを支援することにもなる。
学生や初心者の臨床医(理学療法士)は、しばしば検査中の触診のタイミングに悩むことがある。現在のところ、検査中に触診を行うタイミングの枠組みは決まっていないが、この疑問に答えるために臨床推論のスキルを活用することを推奨する。

検査中は、患者さんから報告された症状の変化に細心の注意を払うことが重要である。例えば、最初に痛みや損傷を受けた時から症状が悪化しているのか、変わらないのか、改善しているのかを確認するために、症状の変化について患者に質問するべきである。患者が強い痛みを訴え、動くことを極度に恐れている場合は、通常、急性の損傷を示している。逆に、患者が痛みのレベルが低く、動きに対する不安感が少ない場合、これは通常、治癒の亜急性期または慢性期にある状態を示している。Maitland (2006)によると、検査プロセスの主な目的の一つは、過敏性の程度を評価することである。過敏性の高い状態は、運動に伴う痛みのレベルが高いこと、最小限の活動の後に痛みが増加すること、痛みがベースラインのレベルに戻るまでの期間が長いことを特徴とする。この情報は、検査プロセスの順序を決定するのに役立つ。

筋骨格系への外傷後、炎症反応が起こる。これは、発赤、熱感、腫脹、疼痛を特徴とする。炎症段階の目的は、外傷部位から死滅した細胞を除去し、感染症の発生を防ぐことである。この段階は約7日間続き、残りの治癒プロセスのためのステージを設定している。組織治癒の第二段階は修復期であり、組織治癒を継続するために創傷部位への線維芽細胞の発現を特徴とする(Gogia, 1992; Moore, Nichols, & Engles, 2010)。この段階で最も重要なのは、創傷に引張強度を与えるためのコラーゲンの形成である。この段階は3日から20日ほど続く。治癒の最終段階であるリモデリング段階は、瘢痕形成とIII型コラーゲンの結合組織に見られる主要なタイプであるI型コラーゲンへの変換によって特徴づけられる。この段階は10日目頃から始まり、組織が損傷前の強度に戻るまで続きます。これらの相は互いに排他的なものではなく、プロセス全体を通して重要な重なりが生じていることを覚えておくことが重要である(Gogia, 1992; Moore et al., 2010)。

触診は時に組織を刺激し、検査の残りの部分[可動域、筋力検査など]から収集した情報の正確性に影響を与えることがある。患者の病歴から、過敏性の程度を臨床医に伝えるべきである。これにより、検査の最初に触診を行うべきか、検査の最後に触診を行うべきかを判断することができる。この判断には継続的な臨床判断が必要であるため、学生や臨床経験の浅い医師(理学療法士)には難しい場合がある。そこで、一般的な経験則として、触診は検査の最後に行うべきであると考える。これにより、臨床医は検査の中で触診を行うための標準化されたポイントを得ることができ、触診が組織を刺激する可能性を減らすことができる。

以上。

ここでポイントになることは、「症状発現の様式(急性か慢性かなど)」を考慮した上で、「触診だけではなく他の所見と統合解釈」することで、「理学療法診断を確定」し、「治療戦略の指針」となり、「臨床上の意思決定の指標」とすることが可能となるという点であると考えています。さらに検査を行う順序として本書では書かれていますが、順序だけでなく、「触診」により得られる情報は、臨床経験が浅い理学療法士にとって判断が難しい場合がある、と述べられている点にも共感します。

本書はこれらを諸言として述べた上で、触診技術について360ページにわたり記載されています。触診の方法については、個人的な意見として、林典雄先生の著書をご参考にしていただいた方が役立つと思いますが、触診そのものの考え方は洋の東西を問わず、古今を通じて同じだと感じています。

正確な「触診技術」を身につけることで、Snap PT diagnosisの大きな武器となることは間違いありません。

先日このような患者さんを担当させていただきました。数年来の膝痛に悩まされ、幾つかの病院で手術を受けられ、それでも症状が改善しないため、当院を受診して手術をされました。当院での手術によりほぼ症状は改善されましたが、当院での術後にも膝前外側部痛は残存されていました。ご自宅が遠方であるため、術後のリハビリテーションは他院で受けられていましたが、術後8ヶ月目の抜釘のタイミングで当院にリハビリ目的の入院をされました。ご本人の強い希望で私に理学療法をということで、担当することになりました。膝前外側部痛は手術を受けても、他院や、自費診療施設など様々な治療を受けても改善しなかったそうです。画像所見を確認した上で、丁寧に問診をし、理学所見も取りました。最後に触診をすると、患者さんが訴えている箇所ではないものの、違和感を感じる箇所を見つけました。患者さんの主訴は膝前外側部痛(ちょうどGerdy結節のあたり)でしたが、私が違和感を感じたのは大腿二頭筋短頭の大腿骨遠位1/3よりさらにやや遠位でした。そこに圧痛が存在し、それは主訴の部位へと放散するような感じがあるとのことでした。同部は健側と比較すると明らかに筋収縮時の浮き上がるような動態を触れることができませんでした。そこで、同部の滑走性と収縮時の浮き上がりを促すような徒手操作を行うこととしました。徒手操作を行うこと10分程度、滑走性が改善してきたことを触診で確認し、歩行を行ってもらいました。すると、「あり得ない、痛くない、今までの時間は一体なんだったんだ」と喜んでくださいました。そう「一撃」で改善です。数年間も悩まれた症状が10分で改善しました。もちろん何年間もかけて作られた軟部組織の変化ですから、翌日には少々症状がリバウンドしましたが、それでも理学療法診断が確定した瞬間でした。Snap PT diagnosisです。なんだが自慢話のようで申し訳ありません。でも事実なのでお許しを。翌日同部を超音波画像診断装置で確認すると、大腿二頭筋短頭の深層部(起始部)が健側と比較して真っ白で「瘢痕化」を疑う画像でした。しかも収縮させてもほとんど動かない状態です。触診と画像がマッチングしていました。こうなれば、症状改善のために行うことは決定されます。Snap PT diagnosisの重要性を再認識することができた症例です。

私が確信していることとして、触診技術が高まることで、治療技術も高まります。私は徒手操作による理学療法を大切にしています。それは、整形外科医が構造破綻の改善を担い、理学療法士は機能破綻の改善を担っていると考えているからです。もちろん運動を行うことで、機能が改善するという部分もあります。ただ、いくら運動を行っても機能的に動けなくなった部分を改善することは難しいと考えています。

徒手操作による治療=手技療法=Manual therapyとも表現できるかもしれません。

日本における「手技療法」という言葉には正直なところ、個人的にあまりいいイメージを持っていません。それは「〇〇法」や「〇〇テクニック」と呼ばれているような、「手技」だけが一人歩きしている「手技療法」を想起してしまうからです。

私が行う「徒手操作による治療」はあくまでも「解剖学」「生理学」「運動学」に基づいた治療です。中でも詳細な解剖に基づいて、筋が治療の対象であれば、その筋束が収縮できるように操作し、靭帯が治療の対象であれば、骨膜上を滑走させるように操作します。「手技」として「特定のやり方」ではなく、「解剖」に即した「やり方」を大切にしています。

このことは「触診技術」の獲得にも同じことが言えます。触診のやり方を覚えるのではなく、解剖を熟知して(透けて見えるかの如く、詳細に理解して)、まずはそこの「正常」な感覚をしっかりと知ることです。そうすれば、「異常」に気づくことができます。

「異常」を検知するためには、「正常」を知らなければなりません。

このことは画像読影でも同じです。そして繰り返し、反復して練習することを欠かしてはいけません。何度も言うように「触診」は「技術」だからです。練習なくして「技術」の獲得はあり得ません。当院のスタッフには少なくとも3年間は毎日触診の練習をしなさいと言っています。前回の「問診」の項でも書きましたが、技術の向上に「王道」や「近道」はありません。

このブログを読まれたキャリアの浅い理学療法士の先生方には是非、毎日「触診」を練習していただきたいと思います。そして華麗にSnap PT diagnosisを決め、「一撃」でよくする治療技術を身につけていただくことを願って止みません。

最後に、IFOMPT(International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists)https://www.ifompt.org は、手技療法の技術を次のように定義しています。「組織の伸展性の改善、関節複合体の可動域の拡大、軟部組織や関節の動員や操作、リラクゼーションの誘発、筋機能の変化、痛みの調整、軟部組織の腫脹、炎症、運動制限の軽減などの効果をもたらすことを目的とした熟練した手による技術であるとし、American Academy of Orthopaedic Manual Physical Therapists (AAOMPT) https://aaompt.orgのDescription of Advanced Specialty Practice (DASP)によると、整形外科的手技療法(OMPT)は理学療法士によって提供される「ハンズオン」治療であると定義されています。高い水準の治療技術には「触診技術」が欠かせないと考えています。

All for a smile of patient... by OH!NO!DX

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