症状としては、膝の引っ掛かり感(catching)、膝折れ(giving way)、疼痛を伴う軋轢音(click, poping)などがあり、関節水腫(いわゆる膝に水が溜まる状態)が出ます。初回の受傷で半月板が損傷しても、小さな損傷の場合には無症状もしくは疼痛のみで特徴的な症状がない場合もあります。受傷を繰り返したり、強いメカニカルストレスが加わることで損傷が進行すると典型的な症状が出てきます。
そもそも半月板は、線維軟骨組織です。機能は膝関節の緩衝機能と荷重の均等化による膝関節の静的・動的安定化と、関節内への栄養供給等の役割を担っているとされています。
正常な半月板の血行は外側1/3にしか存在せず、神経は外側辺縁にしかないとされています。ですから、通常荷重が膝関節にかかっても痛くないわけです。しかし、歩行では荷重量の3倍、階段昇降などでは荷重量の5〜7倍の負荷が膝関節には加わっていますから、加齢とともに変性したり、過度な外力が加わることで断裂したりするわけです。(日本整形外科学会「半月板損傷」パンフレット)
では、「断裂=手術」なのかというと、そうではないと私は考えています。実際には多くの無症候性半月板損傷が存在していることが知られています。(Kornick, J., Trefelner, E., McCarthy, S., et al.: Menis cal abnormalities in the asymptomatic population at MR imaging. Radiology, 177 : 463-465, 1990. )
近年、以下のような報告が立て続けにあり、整形外科医の間でも少なからず話題にはなっています。
Raine S,et al.Arthroscopic Partial Meniscectomy versus Sham Surgery for a Degenerative Meniscal Tear. N Engl J Med 2013; 369:2515-2524. によると、変性内側半月板断裂症状があり、変形性膝関節症ではない患者146人を対象に、関節鏡下半月板部分切除術の治療効果を無作為化試験で偽手術(Sham手術)と比較したintention-to-treat解析で、Lysholmスコア、ウエスタンオンタリオ半月板評価ツール(WOMET)スコア、運動後膝痛の術後12カ月時の変化に有意な群間差はなかったとしています。
加えて、Katz JN et al.Surgery versus Physical Therapy for a Meniscal Tear and osteoarthritis. N Engl J Med 2013; 368:1675-1684 では変形性関節症で半月板断裂の患者351人を対象に、関節鏡下半月板部分切除術と理学療法の治療効果を無作為化試験で比較した結果、WOMACスコアの平均改善度は、6カ月時で手術群20.9ポイント、理学療法群18.5ポイントと有意差はなく、12カ月時の結果も同様で、有害事象の頻度も有意な群間差はなかったと報告しています。
これらの論文は事実ですから、半月板損傷では手術が不要と言いたいのだろうと思われたかもしれません。
私の考えは、「半月板損傷に対する手術は必要な場合もあれば、不要な場合もある」ということです。
つまり、適応を明確にする必要があります。
Raineらの研究では半月板の部分切除と保存療法では有意差がないという結論ですが、これはあくまでも部分切除と保存療法を比較しています。部分切除では対応仕切れないような損傷の場合を検討したわけではありません。
そしてKatzらの研究は背景に変形性膝関節症がある半月板損傷患者を対象としています。純粋な力学的過負荷に起因した患者とはそもそもベースが違います。
これらの論文に対する私の解釈は、半月板損傷に対して部分切除を行う手術はあまり意味をなさず、変形性膝関節症症例の半月板修復術には意味がないということです。
言い換えるなら、膝の変形を伴わない半月板損傷症例には「切除しない修復術」を行うか、患者が12ヶ月程度運動制限ができるのであれば、保存療法も選択肢として考えるべきで、変形性膝関節症症例に対する半月板修復術には慎重に適応を見極めるべき。ということです。
ここでポイントとなるのは12ヶ月の運動制限ということになります。
確かにRaineらの研究では疼痛に対して、6ヶ月・12ヶ月ともに半月板手術とSham手術に統計学的有意差はありません。でも、グラフをよく見ると臨床的に疼痛の程度が同じになるのは12ヶ月が経過した時点です。Katzらの報告でも疼痛に対しては同様に12ヶ月で臨床上疼痛の程度が同じになっています。
12ヶ月間運動が制限されることに対して問題がない症例ではまずは保存療法を第一選択とするべきです。しかし、スポーツ選手のような1日でも早い復帰が必要な症例では手術を第一選択としてもよいと考えます。
でも、半月板には外側にしか神経がないから、そもそも半月板が痛いわけではないし、手術は不要という意見もあると思います。
Paul I. Mapp et.al., Mechanisms and targets of angiogenesis and nerve growth in osteoarthritis. Nature Reviews Rheumatology 2012 8, 390-398. によると損傷した半月板には神経と血管の成長が観察されるとあります。
つまり、損傷した半月板は疼痛を引き起こす可能性があるということです。
ただし、血管も成長しているわけですから、修復される可能性もあるということになります。
ここまでを整理すると、半月板損傷では半月板そのものが疼痛出現のtriggerとなっている場合もあり、12ヶ月の運動制限が可能な症例では保存療法を第一選択とし、運動制限を望まない症例では「切除しない修復術」が望ましいということになります。
では、切除が本当によくないのかということについて最後に考えたいと思います。
半月板損傷の形態的分類:出典 Brisbane Knee and Shoulder Clinic website |
半月板損傷の状態と医師の技量によって手術方法は変わってきます。
どんなに優れた技量を有する医師であっても、修復不能な状態はあります。そうです、手術は魔法ではありません。修復しようと試みても、どうしても切除するしかない場合もあります。未だ治療成績が不安定な再建術を選択せざるを得ないこともあります。手術方法も日進月歩していますから、現状では修復不能な状態でも、今後更に良い手術法が確立される日が来るかもしれません。
そして、私たち理学療法士も画一的な保存療法ではなく、病態に即した理学療法を提供しなければなりません。単にストレッチングや筋力強化を行うのではなく、なぜ半月板損傷が起こったのか、損傷部位にメカニカルストレスが加わった理由を除去する理学療法を提供する必要があります。手術同様我々も日進月歩していかなければなりません。
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