Lancet. 1973 Aug 18;2(7825):359-62. doi: 10.1016/s0140-6736(73)93196-6.
神経について再学習しています。
UptonとMcComasは1973年にLancetの「Hypothesis:仮説」の項に、頚部障害と上肢末梢神経絞扼症候群との関連性について、次のように提唱しました。
==========
脱神経の原因となる神経病変にはさまざまな種類がある。
(a) 圧迫がない
(b) yにおける軽度の圧迫は脱神経を起こすには不十分
(c) 2つの部位で軽度の圧迫があり、yより遠位で脱神経が起こる
(d) 1つの部位yのみの強い圧迫でも脱神経が起こる
(e)「病気の」ニューロン(糖尿病など)のperikaryon(ペリカリオン:核と細胞質を含むが、軸索と樹状突起を除くニューロンの細胞体)によって、かろうじて十分な栄養物質が製造され、それが1つの部位の圧迫によって減少し、再び脱神経を引き起こす
(b)のような状態は臨床症状を引き起こすには不十分であるが、(c)のxのように近位病変の発生によって軸索流(神経に必要な栄養物質の流れ)が減少する。このような状態では臨床症状を惹起する。
==========
手根管症候群と肘部管症候群について
彼らは、手根管症候群の臨床徴候と筋電図学的証拠を有する患者の多くが、前腕、肘、上腕、肩、および胸の前面と背面の痛みも訴えているというCrymble (Br Med J. 1968 Aug 24; 3(5616): 470–471. doi: 10.1136/bmj.3.5616.470)の観察を引用しています。
彼らは、この論文を引用した後、次のような疑問について記述しています。「貫通創や外傷による前腕の限局性正中(または尺骨)神経損傷を有する患者が、同様の関連痛を通常経験しないのはなぜか?」
また、手根管症候群の手術を受けた患者の中には、術後に改善しなかったり、むしろ悪化したりした例もあることを指摘しています。それは手術が不適切であったわけでも、診断が間違っていたわけでもないのにです。
さらに、Phalenの研究(Bone Joint Surg Am 1966 Mar;48(2):211-28.)を引用して、露出した212本の正中神経のうち61本に圧迫の目に見える証拠がなかったと述べています。
UptonとMcComasの研究では、220人の患者を診察・検査した結果、115人の患者に電気生理学的に神経障害が証明され、そのうち81人(70%)に頸神経根病変があったとのことです。
これらすべての臨床的観察に基づくと、運動神経線維の近位部の損傷は、わずかな圧迫に対しても遠位部を感作することが示唆されたと述べています。
彼らはこの状況を「ダブルクラッシュ症候群」と名付け、このような感受性の高さが、肩や上腕の痛み、手首の神経病理の変化、手首の正中神経を十分に除圧した後に続発する手術が失敗したと思われる症例を説明できる可能性を示唆しました。
==========
LC Hurst, D Weissberg, RE Carroll, The relationship of the double crush to carpal tunnel syndrome (an analysis of 1,000 cases of carpal tunnel syndrome) J Hand Surg Br. 1985 Jun;10(2):202-4. doi: 10.1016/0266-7681(85)90018-x.
a 正常
b 手根管で軽度の圧迫はあるが症状の発現には至っていない
c 頸髄神経根圧迫のため、b程度の軽い手根管の圧迫でも症状は出現する
d 手根管の圧迫の程度が強いので症状が出現する
e 軸索流が障害されているためかあるい手根管圧迫で臨床症状が出ている
==========
温故知新ですね。昔の医師は画像所見が得られなかった分、本当によく臨床症状を観察しています。この点についても学ぶことが出来ました。
臨床の病態解釈に幾つかのエッセンスが加わりました。
All for a smile of patient... by OH!NO!DX